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油圧シリンダとは?種類・構造・選定計算の基本を解説

油圧の知識(第3回)

株式会社マツイでは、様々な油圧機器を取り扱っています。
こちらの記事では、アクチュエータに分類される油圧シリンダの基本を解説していきたいと思います。

目次

アクチュエータとは?

アクチュエータとは、流体エネルギーを機械エネルギーに変換する油圧装置の事を言います。 油圧機器では、直線運動に変換する油圧シリンダと回転運動に変換する油圧モータがあります。 ここでは油圧シリンダについて説明します。

油圧シリンダとは?

油圧シリンダとは、流体エネルギーを機械エネルギーに変換するアクチュエータに分類されます。 油圧シリンダは、油圧により直線運動に変換します。

油圧シリンダの種類と構造説明

油圧シリンダの規格/形状から分類

JIS油圧シリンダ
JIS規格に基づき設計されたタイボルト組立方式の油圧シリンダ
ISO油圧シリンダ
ISO規格に基づき設計されたタイボルト組立方式の油圧シリンダ
MILL油圧シリンダ
JOHS規格に基づき設計された製鉄機械/重機械用の油圧シリンダ
薄形油圧シリンダ
ストロークに対して全長が非常にコンパクトな油圧シリンダ
特殊油圧シリンダ
業界/母機/用途などお客様の要求に合わせて設計された油圧シリンダ
テレスコ油圧シリンダ
軸方向の取付スペースを小さくする目的で設計された油圧シリンダ

油圧シリンダの構造より分類

油圧シリンダの基本構造

単動形油圧シリンダ

ピストンの片側にのみ油圧配管ポートがあります。一方向動作のみ油圧で行います。 戻り動作は重力を利用したり、スプリング力を利用したりします。動力の節約が可能です。

復動形油圧シリンダ

ピストンの両側に油圧配管ポートがあります。往復動作を油圧で行います。

テレスコ形油圧シリンダ

通常の油圧シリンダと比較して軸方向の取付スペースを小さくすることができる。 テレスコシリンダは、テレスコープシリンダやテレスコピックシリンダと呼ばれています。

油圧シリンダの出力計算

油圧シリンダの出力(力)について説明します。
荷重(W)を右側に移動させる力を求めていきます。 油圧シリンダのヘッド側の受圧面積A1にかかる 圧力P1が右側へ動かす力となります。

ただし、ピストンの反対側である ロッド側(A2側) には配管などの抵抗によって 背圧P2 が発生します。 背圧P2P1側 の力を妨げますので、背圧による力の分を差し引きする必要があります。

油圧シリンダの出力計算式

  • 出力:F(N)
  • ヘッド側圧力:P1(MPa)
  • ヘッド側受圧面積:A1(cm2)
  • ロッド側圧力:P2(MPa)
  • ロッド側受圧面積:A2(cm2)

簡易計算をする場合は、背圧をゼロとして計算しない場合もあります。

油圧シリンダの速度計算

油圧シリンダの速度(スピード)について説明します。
管内の流量と流速を求めることで油圧シリンダの速度(スピード)がわかります。
流量とは単位時間内に移動する流体の容積のことで、断面積と流速の積(掛け算)になります。

油圧シリンダ速度計算の概要

注記)

流量Qの単位はL/minを用います。
流速vの単位はm/sもしくはmm/sを用います。

油圧シリンダの必要流量計算式

流入量の計算

注記)

流量Qの単位はL/minを用います。
流速vの単位はm/sもしくはmm/sを用います。

流出量の計算

注記)

流量Qの単位はL/minを用います。
流速vの単位はm/sもしくはmm/sを用います。

油圧シリンダのピストン速度計算式

流入量からの計算

注記)

流量Qの単位はL/minを用います。
流速vの単位はm/sもしくはmm/sを用います。

流出量からの計算

注記)

流量Qの単位はL/minを用います。
流速vの単位はm/sもしくはmm/sを用います。

標準油圧シリンダ速度の目安値

【参考値】v=15mm/s~300mm/s

油圧シリンダの座屈について

油圧シリンダの座屈とは?

ピストンロッドの軸方向に圧縮荷重が作用する場合、 ピストンロッド径に対してストロークが長いと下図イメージのようにロッドが 曲がってしまうことがあります。このような現象を座屈と呼び、 作動不良や破壊の原因となります。 そのため、選定されたシリンダに対して座屈強度の合否判定を行う必要があります。

油圧シリンダの座屈表とは?

座屈表とは、シリンダの軸方向に衝撃なく荷重がかかったときの 許容荷重を判定するものです。メーカーカタログを必ず確認してください。

油圧シリンダの座屈計算

座屈計算は各メーカーの計算ツールを活用してください。

油圧シリンダの座屈計算には、下記項目について条件設定が必要です。

  • メーカー/製品シリーズを決定します。
  • 油圧シリンダの止め方を決定します。
    止め方によって座屈計算に必要な荷重に対する考え方が異なります。
    油圧シリンダのストローク端で停止する方式

    垂直方向

    荷重=W*g

    水平方向

    荷重=μ*W*g

    • μ:負荷の摩擦係数
    • g:重力加速度 9.8m/s2
    • W:負荷質量
    外部ストッパにより、シリンダ動作をストローク途中で停止する方式

    荷重 = シリンダ理論出力

    ※この方式での荷重は、 負荷質量ではなくシリンダ理論出力となります。

  • 負荷質量を決定します。
    座屈計算に必要な荷重を項目2の内容より決めます。
  • 取付支持形式を決定します。
    軸心固定形
    シリンダ本体をフートやフランジによって固定し、 シリンダ軸心に対して往復直線運動を行います。
    例)基本形 フート形LA/LB/LC フランジ形FA/FB/FC/FD/CF
    軸心揺動形
    トラニオンやクレビスのピンを支点として、シリンダ全体が揺動運動を行います。
    例)クレビス形CA/CB/CC トラニオン形TA/TC
  • ピストンロッド径を決定します。
  • チューブ内径を決定します。
  • Lmm寸法を決定します。
    最もシリンダが伸びた時のLmm(シリンダ取付位置と 負荷の取付位置との距離)を求めます。
  • ストロークを決定します。
  • 先端金具を決定します。
    例)T先:1山先端金具 Y先:2山先端金具
  • ロックナットを決定します。
  • ジャバラを決定してください。
  • 取付支持の状態を決定してください。
    • シリンダ固定/ロッドエンド自由
    • シリンダ固定/ロッドエンドピンジョイント
    • 両端ピンジョイント
    • ロッドエンドガイド
      ※支持状態から座屈表を選び許容最大荷重を求めるのに必要です。

注意事項

  • シリンダの座屈強度を上げるのはピストンロッド径を太くする以外に方法はありません。
    (高強度の材料を使用したり、熱処理を施しても強くなりません。)
  • 選定で使用可能であってもメーカーの製作できる範囲を超えている場合があります。
  • メーカーカタログに記載の選定資料を必ず確認して下さい。

油圧シリンダのクッションについて

油圧シリンダには、停止時に慣性力による運動エネルギーが発生します。そのために、ストロークエンド端で発生する運動エネルギーを吸収するために衝撃吸収対策が必要になります。

衝撃吸収対策の1つとして、油圧シリンダにはクッションバルブの機構があります。クッションバルブの機構は、メーカーにより異なりますのでカタログなどを確認してください。

注意事項

クッションバルブがない油圧シリンダを使用する場合は、 ピストンがカバーに当たるときに金属音がしないように速度を下げてください。
※【参考】目安速度:50mm/s以下
もしくは、外部にストッパを設置してください。

クッションバルブ付き油圧シリンダを使用する場合でも、 ストロークエンド端で使用せず、手前で停止させる場合は クッション効果がありませんのでご注意ください。

チューブ内径とロッド径の組み合わせ

汎用形油圧シリンダの参考組み合わせ表になります。
ロッド径の記号
チューブ内径 A B C X Y
32 22 18 14 20 16
40 28 22 18 25 20
50 36 28 22 32 25
63 45 36 28 40 32
80 56 45 36 50 40
100 70 56 45 63 50
125 90 70 56 80 63
140 100 80 63 90 70
160 110 90 70 100 80
180 125 100 80 110 90
200 140 110 90 125 100
220 160 125 100 140 110
250 180 140 110 160 125

油圧シリンダ選定のポイント

油圧シリンダを選定するには以下項目を決定する必要があります。

1. シリンダ内径の仮選定

必要なシリンダ出力から内径を仮選定します。

POINT

ここで仮選定した内径は、 ピストンロッドの座屈計算やクッションの慣性力吸収可否判定により 変更になる可能性があります。

2. メーカー/構造/シリーズ/仕様の仮選定

規格、構造、使用圧力、シリンダ内径などからシリンダメーカーとシリーズを仮選定します。

POINT

この時に各仕様項目についてもメーカー選定含め概略検討してください。

3. 取付支持形式の選定

シリーズ内の外形寸法図から取付の支持形式を選定します。

POINT

メーカー/シリーズにより支持形式が無い場合や表示型式が異なる場合がございます。

4. 防塵カバーの有無と材質の選定

周囲環境を考慮し、切粉、土砂、塵埃等がシリンダにかかる場合は、ピストンロッドを保護する防塵カバーをつける必要があります。

POINT

耐熱条件などで選定する材質が異なります。

5. ピストンロッドの選定と座屈の合否判定

チューブ内径とピストンロッドの組み合わせ表よりピストンロッド径を選定し、座屈資料を参考に使用可否を判定してください。

POINT

使用不可の場合は、下記いずれかの条件を変更して再判定してください。

  • 設定圧力を低くする。
  • シリンダ内径やシリーズを変更し、ピストンロッドの径を太くする。
  • 負荷にガイドがない場合、ガイドを付けるなど取付条件を変更する。

6. クッション有無の検討

クッション機構が必要な場合は、クッションの最大吸収エネルギ線図を参考に使用可否の判定をしてください。

POINT

使用不可の場合は、下記いずれかの条件を変更して再判定してください。

  • 設定圧力を低くする。
  • シリンダ内径を大きくする。
  • シリーズを変更する。
  • 減速回路を設ける事で、クッション突入時の速度を使用可能な速度まで減速する。
  • 外部にショックアブソーバなどを設置する。

7. パッキン材質の選定

カタログ内のパッキン項目を参考に選定してください。

POINT

作動油の種類、使用温度範囲、耐圧、耐摩耗性などにより選定する材質は異なります。

8. 配管ポートのサイズ/形状を確認

シリンダ速度(必要油量/管内流速)を参考にシリンダポート径を確認してください。

POINT

標準シリンダの場合は、ポートサイズ/形状は決められています。

9. その他仕様の確認

その他仕様や付属品を確認ください。

POINT

先端金具、ロックナット、ブラケットなど付属品の必要有無を確認ください。
ポート位置、クッション位置、エア抜き位置などの確認も必要です。

10. スイッチ仕様の有無確認

スイッチ付き油圧シリンダと標準油圧シリンダは、そもそも内部のピストン形状が異なります。

POINT

スイッチ付き油圧シリンダはピストンにマグネットが内蔵されてます。

アプリケーション

実際に油圧シリンダがどんなところに使われているか、ご紹介します。

製鉄機械

アプリケーション

工業炉

工業炉

油圧シリンダ

ミルシリンダ

工業炉

一般産業機械

アプリケーション

射出成形プレス

射出成形プレス

油圧シリンダ

汎用形油圧シリンダ

TAIYO/汎用形油圧シリンダ

工作機械

アプリケーション

マシニングセンタ

マシニングセンタ

油圧シリンダ

薄型油圧シリンダ

堀内機械/薄型油圧シリンダ

車両機械

アプリケーション

高圧吸引車

高圧吸引車

油圧シリンダ

特殊シリンダ

特殊シリンダ

マツイの取扱製品

油圧シリンダはこちら

マツイでは様々な油圧シリンダを取り扱っています。
特殊形油圧シリンダにつきましては、ぜひご相談ください!

産業機械分野だけでなく、建設機械、車両機械分野向け特殊シリンダも得意です。

執筆者

八十原 貴宏

大阪支店 営業部
油圧装置調整技能士1級

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油圧装置調整技能士を始め、有資格者が多数在籍。お客様の専門的なご相談にもお答えできる油圧機器のプロがご対応。お気軽にお問い合わせください。

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