油圧モータとは?種類・構造・選定計算の基本を解説
油圧の知識(第4回)
株式会社マツイでは、様々な油圧機器を取り扱っています。
こちらの記事では、油圧モータの基本を解説していきたいと思います。
目次
アクチュエータとは?
アクチュエータとは、流体エネルギーを機械エネルギーに変換する油圧装置の事を言います。 油圧機器では、直線運動に変換する油圧シリンダと回転運動に変換する油圧モータがあります。 ここでは油圧モータについて説明します。
油圧モータとは?
油圧モータとは、流体エネルギーを機械エネルギーに変換するアクチュエータに分類されます。 油圧モータは、油圧により回転運動に変換します。 回転速度や回転方向の制御が容易に行えます。
油圧モータの種類
必要油量の調整可否から分類
分類 | JIS記号 | 説明 |
---|---|---|
定容量形油圧モータ | 軸を1回転させるのに必要な油量が一定の油圧モータ | |
可変容量形油圧モータ | 軸を1回転させるのに必要な油量が可変できる油圧モータ |
油圧モータの構造から分類
油圧モータの特長
一般的な概略特長となります。
ギヤモータ
特長
- 構造が簡単である。
- コンパクトで軽量。
- 高速低トルクの用途に適している。
- ギヤポンプと基本的には同じ仕組みである。
- 外接形と内接形の2種類。
- 外部ドレン方式である。
ベーンモータ
特長
- 出力トルクのムラが少ない。
- 中速中トルクの用途に適している。
- 外部ドレン方式である。
- ベーンポンプとよく似た仕組みである。
補足説明 外接ギヤモータとベーンモータの特長比較
ベーンモータは、出力トルクのムラが少ない特性があります。
出力トルク(軸が回転する力)は連続的に発生するので、ムラが少ないです。
外接ギヤモータは、ギヤが嚙み合っている時に出力トルク(軸が回転する力)が発生します。
ギヤの噛み合いが離れた時に一瞬ですが出力トルク(軸が回転する力)がなくなるのでムラが発生します。
アキシャルピストンモータ
特長
- 可変容量形の油圧モータがある。
- 構造が複雑である。
- 出力トルクの大きなものがある。
- 効率が高い。
- 使用できる回転数の範囲が広い。
- 外部ドレン方式である。
油圧モータの仕組み
油圧モータの仕組みについて概略説明します。
外接形ギヤモータ
ケーシングの内面にそって油は噛み合い部分の反対側に導かれます。 噛み合い部分で圧油が働く歯面の面積差によりトルクを発生します。 ギヤポンプと基本的には同じ仕組みですが、油圧モータの場合は、 INとOUTが入れ替わる事で、出力軸は両回転することができます。 外部ドレン方式が一般的です。
ベーンモータ
ベーンポンプの場合は、ロータを回転させると遠心力と油圧力でベーンが張り出します。 ベーンモータの場合は、回転する前からベーンを張り出す必要があります。 バネ力または油圧力を用いて張り出します。 仕組みはポンプとよく似ています。 外部ドレン方式が一般的です。
斜板形アキシャルピストンモータ
軸とシリンダブロックは、スプラインで結合されており、同時に回転します。 ピストン先端は、スリッパを介して、斜板に常時接しながら回転しています。 斜板の傾きに比例してピストンはストロークします。 仕組みはポンプとよく似ていますが、INとOUTが入れ替わることで両回転します。 外部ドレン方式が一般的です。
油圧モータの出力計算
油圧モータの押しのけ容積と差圧(入口圧力-出口圧力)から、油圧モータの出力トルクを計算します。
油圧モータの出力トルク計算式
- T(N・m):出力トルク
- ΔP:油圧モータの入口と出口の圧力差
- q(cc/rev):油圧モータの押しのけ容積
- ηt:トルク効率
補足説明
- 油圧モータの押しのけ容積(cc/rev)とは、軸を1回転させるのに必要な理論容積(cc)を言います。
- 油圧モータのトルク効率(ηt)とは、与えられた入力に対して、どれだけ有効に仕事をするかを示す割合です。
油圧モータの必要油量計算
油圧モータの押しのけ容積と必要回転数から油圧モータに必要な流量を求めます。
油圧モータの必要油量計算式
- Q(L/min):油圧モータの必要油量
- q(cc/rev):油圧モータの押しのけ容積
- N(min-1):理論回転数
- ηv:容積効率
補足説明
油圧モータの容積効率(ηv)とは、圧力に対する回転数の変化を表します。
油圧モータのサイズ選定計算
油圧モータのサイズは押しのけ容積(cc/rev)の大きさで表します。 油圧モータの押しのけ容積q(cc/rev)を導くには、上記2つの計算式を変形させて計算します。
- q(cc/rev):油圧モータの押しのけ容積
- T(N・m):出力トルク
- ΔP:油圧モータの入口と出口の圧力差
- ηt:トルク効率
- q(cc/rev):油圧モータの押しのけ容積
- Q(L/min):油圧モータの必要油量
- N(min-1):理論回転数
- ηv:容積効率
油圧モータ選定のポイント
油圧モータの選定に厳格なルールはありません。 設置環境、作動油の種類、使用条件、モータの仕様や特長、客先条件など 色々な条件を考慮しながら選定します。 各メーカーにより製作しているモータも異なりますので、 メーカーの製品ラインナップや特徴を理解する事もモータ選定には重要です。 自身の設計コンセプト、趣味、思考なども実際は選定条件に含まれます。
油圧モータの出力計算の値、必要油量計算の値、押しのけ容積の値、 使用圧力の値などをもとに、現実的な油圧モータの仕様を見極めます。 最適メーカーと油圧モータのシリーズを一旦決定します。 油圧源の供給可能な圧力と流量なども油圧モータの選定条件には必要です。 そのあとに油圧モータを単体選定で進めていくのか?減速機が必要なのか? 減速機の減速比はいくつなのか?などの判断で油圧モータは再選定となります。
油圧モータ選定の注意点
油圧モータの始動トルク
油圧モータを始動するときは、静摩擦抵抗に打勝つための始動トルクが必要です。 始動後は、動摩擦抵抗になるので始動トルクより低いトルクで駆動できます。 油圧モータの始動時に高負荷がかかっている場合は、始動トルクを考慮しないと始動できません。
油圧モータの背圧
メーカーカタログに背圧は〇〇MPa以下にしてくださいと記載がありますので注意してください。軸シールより油漏れの原因となります。 メーカーカタログ値以上の背圧が発生する場合は、ドレン配管を必ず行ってください。
補足説明
油圧モータの背圧とは、油圧モータから出たタンク戻り側の圧力を言います。
油圧モータの低速回転
油圧モータを低速回転で使用する場合、容積効率が著しく低下し、回転が不安定になります。 必要に応じて減速機を考慮した仕様検討をお願いします。 低速高トルクを特長とした油圧モータもございます。
油圧モータの負の負荷
油圧モータの軸が外力で回される場合、油圧モータの暴走を防止する対策が必要です。
参考例
ウインチのように、負荷の自重で油圧モータが回転させられる場合、油圧モータのタンク戻り側にカウンターバランスバルブ(背圧弁)を取付けなければならない。 カウンターバランスバルブで油圧モータが暴走回転することを防止することができます。 メ-タアウト回路でも暴走回転を防止できますが、回路内に増圧される部分が発生しやすいので充分注意して回路設計をしてください。
参考回路図
- 油圧モーター(メカノカルブレーキ付)・・・停止している時のパーキングブレーキが目的。
- ブレーキバルブ・・・油圧モータの保護が目的。
- カウンターバランスバルブ(背圧弁)・・・暴走防止が目的。
- 絞り弁(メータイン制御)・・・速度調整が目的。
アプリケーション
実際に油圧モータがどんなところに使われているか?
車両機械
アプリケーション
高圧吸引車
油圧モータ
内接形ギヤモータ
アプリケーション
塵芥車
油圧モータ
内接形ギヤモータ
舶用機械
アプリケーション
定置網船
油圧モータ
アキシャルピストンモータ
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執筆者
八十原 貴宏
大阪支店 営業部
油圧装置調整技能士1級
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