オープン回路(開回路)とは? 3つの制御回路の基本を解説!
油圧の知識(第8回)
株式会社マツイでは、様々なメーカーの油圧機器を単品だけでなく、油圧ユニットや油圧システムとしてご提供しております。
こちらの記事では、油圧システムを構築する上で大切な油圧回路の基本を解説していきます。
目次
油圧回路とは?
油圧回路とは、アクチュエーターがどのような油圧仕様で動作するのかを、さまざまな記号を使って油圧システム全体を表したものです。一般的にJIS記号を使って表します。
別な表現にすると油圧回路は、要求通りの力と速度を目的の方向へ動かすための設計図ともいえます。
油圧システムが適切かどうか?効率よく仕事ができるか?効果的な設計か?などさまざまな検証も油圧回路で行います。今回は油圧の基本回路であるオープン回路(開回路)について解説します。
油圧回路の分類
油圧回路はオープン回路(開回路)とクローズ回路(閉回路)の2種類に分類されます。

オープン回路(開回路)とは?
油圧回路のオープン回路(開回路)とは、油圧ポンプでタンク内にある油を吸入/吐出し、加圧した油は主に切換弁で方向制御されアクチュエータへ供給されます。アクチュエータからの戻り油はタンクへ返送されます。油圧ポンプは片方向にのみ油を吐出します。圧力/流量/方向制御は油圧ポンプだけでなく、様々な油圧バルブを使い制御します。複数系統の油圧回路にも対応可能です。アクチュエータは油圧シリンダでも油圧モータでも対応できます。油圧回路(油圧配管)のP.S.T.A.Bラインがタンクを介在する事でループ状につながっていないのでオープン回路(開回路)と呼びます。
オープン回路(開回路)には、「パラレル回路」「タンデム回路」「シリーズ回路」の3種類が分類されます。
オープン回路(開回路)イメージ図

確認事項
- 油圧回路(油圧配管)のP.S.T.A.Bラインがタンクを介在する事でループ状につながっていない事を確認ください。
クローズ回路(閉回路)イメージ図 【比較用】

確認事項
- 油圧回路(油圧配管)のP.S.A.Bラインがタンクを介在する事なくループ状につながっている事を確認ください。
オープン回路(開回路)の特長と短所
オープン回路(開回路)は油圧機械全般において幅広く使用します。
クローズ回路(閉回路)と比較した場合の特長と短所について概略解説します。
オープン回路(開回路)の特長
- 汎用性が高い 入手性の良い油圧機器で構成が可能。
- アクチュエータを限定しない 対象アクチュエータは油圧モータと油圧シリンダのどちらにも対応可能。
- 複数のアクチュエータに対応可能 油圧ポンプ1台で複数のアクチュエータを同時または個別に制御可能。
- 油温上昇の抑制 油がタンクへ戻るためシステム全体の油温上昇を抑制し易い。放熱を考慮したタンク容量の確保や冷却装置の装備が容易である。
- 油の清浄化 油圧回路やタンク内で油のフィルトレーションができる。
- システム設計の多様性 システム設計の自由度が高い。比例弁/サーボ弁を組み込む事で高精度な制御を構築したり、電子制御機器との組み合わせも構築し易い。
- 多様なアプリケーションに対応 一般産業機械だけでなく、産業車両など幅広い分野で使用されます。
オープン回路(開回路)の短所
- エネルギーのロス 油圧ポンプは常時一定量の油を吐出しているため、アクチュエータが動作していない待機状態の場合でもエネルギーを消費します。電力や燃費においてもロスになります。
- スペースの確保 油の冷却を考慮したタンク容量が必要となり、システム全体のスペースや重量が大きくなる傾向があります。
オープン回路(開回路)に分類される3つの油圧回路とは?
「パラレル回路」「タンデム回路」 「シリーズ回路」の3種類がオープン回路(開回路)に分類されます。3種類の概要と業種やアプリケーションの市況について解説します。
パラレル回路とは?
パラレル回路は、アクチュエータをそれぞれ独立して操作することができる油圧回路です。油圧機械全般で幅広く使用されます。全ての切換弁を同時に全開で操作すると、最も負荷の少ないアクチュエータから動作します。比例切換弁の場合はスプールを開度調整することで同調動作も可能です。アクチュエータは油圧モータでも油圧シリンダでも使用可能です。
パラレル回路は並列回路とも呼ばれます。
市況
対象アクチュエータ | 油圧モータ / 油圧シリンダ |
---|---|
業種 | 全般 |
アプリケーション | 産業機械 工作機械 建設機械 産業車両 農業機械 クレーン |
パラレル回路

タンデム回路とは?
タンデム回路は、上流側にある切換弁のスプールを操作しているときは、下流側にある切換弁のスプールは操作できません。アクチュエータを確実に動作させる場合に使用しますので2台同時に切換弁のスプールを操作した場合でも上流側にある切換弁のスプール操作が優先されます。タンデム回路を構成するには、上流側にある切換弁のキャリーオーバーポート(L)より出た油を下流側にある切換弁のポンプポート(P)に接続して使用します。
アクチュエータは油圧モータでも油圧シリンダでも使用可能です。
タンデム回路はくし形回路とも呼ばれます。
市況
対象アクチュエータ | 油圧モータ / 油圧シリンダ |
---|---|
業種 | 車輛系機械 |
アプリケーション | 産業車両 農業機械 / 作業機 建設機械 クレーン |
タンデム回路

シリーズ回路とは?
シリーズ回路は、アクチュエータからの戻り油を下流側にある切換弁のスプールに導き、他のアクチュエータも同時に動作させる油圧回路です。ただし、上流側にあるアクチュエータから優先動作します。必要圧力は各々のアクチュエータの動作に必要な圧力差を加算した圧力になります。アクチュエータは主に油圧モータを使用します。油圧シリンダを使用する場合は面積差で2本目の油圧シリンダの速度が規制されたり、動作しきれない場合などがありますのでご注意ください。 シリーズ回路は直列回路とも呼ばれます。
市況
対象アクチュエータ | 油圧モータ / (油圧シリンダ) ※主に油圧モータで使用 |
---|---|
業種 | 舶用機械 |
アプリケーション | 甲板機械 |
シリーズ回路

パラレル回路の圧力/流量/特性とポイントを解説
各アクチュエータに必要な圧力と流量より、油圧ポンプの仕様と必要動力について解説しますので回路特性をご理解ください。
パラレル回路の概略回路【解説回路】

注記) 配管や油圧機器の圧力損失やリーク量などはは考慮していません。
回路解説
アクチュエータ動作表
名称 | 油圧モータ(1) | 油圧モータ(2) | 油圧モータ(3) |
---|---|---|---|
同時動作可否 | 可能 | ||
同時動作必要流量 | 60L/min | ||
同時動作必要圧力 | MAX 8MPa | ||
回路特性 | 負荷の少ないアクチュエータから動作 |
- 油圧ポンプは油圧モータ(1)(2)(3)が同時動作するのに必要な油量(60L/min)が吐出量になります。
- 切換弁のスプールが中立時は60L/minでアンロード(P⇒T)します。
- 必要な回路圧力は油圧モータの一番高圧で使用する圧力(8MPa)になります。
- 安全弁(10MPa)は回路圧力にプラス2MPaした圧力が参考設定値になります。
- 動力容量はポンプ吐出量(60L/min)と回路設定圧力(8MPa)での容量計算が必要です。
パラレル回路のポイント
複数アクチュエータの同時動作や同調制御が可能な油圧回路です。
タンデム回路の圧力/流量/特性とポイントを解説
各アクチュエータに必要な圧力と流量より、油圧ポンプの仕様と必要動力について解説しますので回路特性をご理解ください。
タンデム回路の概略回路【解説回路】

注記) 配管や油圧機器の圧力損失やリーク量などはは考慮していません。
回路解説
アクチュエータ動作表
名称 | 油圧モータ(1) | 油圧モータ(2) | 油圧モータ(3) |
---|---|---|---|
同時動作可否 | 可能 | 不可 | |
同時動作必要流量 | 40L/min | 20L/min(単独動作) | |
同時動作必要圧力 | MAX 8MPa | 4MPa | |
回路構成 | パラレル回路 | タンデム回路 | |
回路特性 | 単独動作 |
- 油圧ポンプは油圧モータ(1)(2)が同時動作するのに必要な油量(40L/min)が吐出量になります。
- 切換弁のスプールが中立時は40L/minでアンロード(P1⇒L⇒P2⇒T2)します。
- 必要な回路圧力は油圧モータの一番高圧で使用する圧力(8MPa)になります。
- 安全弁(10MPa)は回路圧力にプラス2MPaした圧力が参考設定値になります。
- 動力容量はポンプ吐出量(40L/min)と回路設定圧力(8MPa)での容量計算が必要です。
- 切換弁①操作時の油はT1ポートよりタンクへ流れます。
タンデム回路のポイント
- 切換弁①と切換弁②は上流側を高圧にしてください。
- 切換弁①と切換弁②は同時動作はできません。切換弁①のスプール動作が優先されます。
シリーズ回路の圧力/流量/特性とポイントを解説
各アクチュエータに必要な圧力と流量より、油圧ポンプの仕様と必要動力について解説しますので回路特性をご理解ください。
シリーズ回路の概略回路【解説回路】

注記) 配管や油圧機器の圧力損失やリーク量などはは考慮していません。
回路解説
アクチュエータ動作表
名称 | 油圧モータ(1) | 油圧モータ(2) | 油圧モータ(3) |
---|---|---|---|
同時動作可否 | 可能 | ||
同時動作必要流量 | 20L/min | ||
同時動作必要圧力 | 17MPa | 9MPa | 4MPa(単独動作) |
回路特性 | 上流側から優先動作 |
- 油圧ポンプは油圧モータ(1)(2)(3)の中で最大流量で動作する油量(20L/min)が吐出量になります。(解説回路はすべて同じ流量です。)
- 切換弁のスプールが中立時は20L/minでアンロード(P⇒T)します。
- 必要な回路圧力は油圧モータ(1)(2)(3)の動作に必要な加算された圧力(17MPa)になります。
- 安全弁(19MPa)は回路圧力にプラス2MPaした圧力が参考設定値になります。
- 動力容量はポンプ吐出量(20L/min)と回路設定圧力(17MPa)での容量計算が必要です。
シリーズ回路のポイント
- アクチュエータは同時動作が可能ですが上流側から優先動作します。
マルチ弁とは?
回路解説に使用しているマルチ弁について簡単に解説しておきます。
マルチ弁は、多連弁と呼ばれアクチュエータの系統数に合わせ1連から10連程度の構成ができる油圧バルブです。産業車両などに多く搭載される方向切換弁になります。操作していない時はアンロードとなるよう回路構成されているのが一般的です。多連マルチバルブには手動操作式と電磁操作式の2種類があり、制御方式には「ON-OFF制御」と「比例制御」があります。
積層可能なISOガスケット取付型の方向切換弁とは種類が異なります。
JIS記号 マルチ弁(1連) | JIS記号 積層型切換弁 【比較参考】 |
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手動マルチ弁(1連) オールポートブロック スプリングセンタ |
手動切換弁 オールポートブロック スプリングセンタ |

M4シリーズ

PSLシリーズ

SVシリーズ
写真) 参考例です。
アプリケーション
実際にオープン回路(開回路)がどんなところに使われているか、例をご紹介します。
製鉄機械
アプリケーション
工業炉

車両機械
アプリケーション
高圧吸引車

一般産業機械
アプリケーション
射出成形プレス

舶用機械
アプリケーション
定置網船

掲載写真は参考例です。
マツイの取扱製品
方向制御弁はこちら
執筆者

八十原 貴宏
大阪支店 営業部
油圧装置調整技能士1級
当ページについて