油圧のフィルタ回路|油圧に必要なフィルタの基本を解説
油圧の知識(第7回)株式会社マツイでは、様々なメーカーの油圧機器を単品だけでなく、油圧ユニットや油圧システムとしてご提供しております。
こちらの記事では、油圧システムを構築する上で大切な油圧回路の基本を解説していきます。
目次
油圧回路とは?
油圧回路とは、アクチュエーターがどのような油圧仕様で動作するのかを、さまざまな記号を使って油圧システム全体を表したものです。一般的にJIS記号を使って表します。 別な表現にすると油圧回路は、要求通りの力と速度を目的の方向へ動かすための設計図ともいえます。
油圧システムが適切かどうか?効率よく仕事ができるか?効果的な設計か?などさまざまな検証も油圧回路で行います。油圧でのトラブルの70%はコンタミ(ゴミ)に関連すると言われていますので、今回解説する「油圧のフィルタ回路!」は重要な役割を担っています。
油圧フィルタとは?
油圧システム中の油圧フィルタとは、作動油の清浄度を保つための重要な役割を持つ油圧機器になります。語源は英語の「Filter」からきています。作動油中のコンタミ(ゴミ)を除去することが主目的になります。ゴミの大きさ、形、材質などもさまざまですので、ろ過精度だけでなく、目的、用途、除去効果、管理方法などで使用する油圧フィルタも種類が異なります。ろ過器や浄油機と呼ぶ付加価値が付いた製品もあります。
油圧フィルタのJIS記号
油圧フィルタの付属アクセサリと機能
油圧フィルタには、フィルタハウジング(本体)とフィルタエレメント(ろ材)以外にアクセサリが付属する場合が多いです。
- 差圧指示器
- 油圧フィルタの差圧指示器は、フィルタエレメントの目詰まりを検知します。色の変化で目詰まりを目視検知する方法や電気スイッチによる電気信号で検知する方法があります。
- バイパス弁
- 油圧フィルタのバイパス弁は、フィルタエレメントの目詰まりや低温始動時の異常差圧によるエレメント破損を防止します。
- ストップ弁
- 油圧フィルタのストップ弁は、フィルタエレメントの交換を容易にします。
油圧フィルタのろ過精度
油圧フィルタのろ過精度には、「公称ろ過精度」と「絶対ろ過精度」の2種類があります。
公称ろ過精度
フィルタ名称 | ノミナルフィルタ |
---|---|
概要 | フィルタメーカーの独自基準での公称値で制作された油圧フィルタです。 |
用途 | 油圧・潤滑システム全般に使用される。 |
油圧フィルタの「公称ろ過精度」とは、表示したろ過精度の粒子を確実に除去するわけではなく、メーカー独自基準でのフィルタ性能を示します。
参考メッシュとミクロンの換算表
メッシュ | 40 | 60 | 80 | 100 | 150 | 200 | 250 | 325 | 500 | 1000 | 1500 | 2400 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
ミクロン | 420 | 250 | 185 | 150 | 105 | 75 | 60 | 50 | 30 | 20 | 10 | 5 |
- 注記1)メーカー独自の公称値なので参考値としてください。
- 注記2)大生工業フィルタカタログより引用しています。
絶対ろ過精度
フィルタ名称 | アブソリュートフィルタ |
---|---|
概要 | ISO国際基準で制作された油圧フィルタです。 |
用途 | 比例弁やサーボ弁など精密システムに使用されることが多い。 |
油圧フィルタの「絶対ろ過精度」とは、特定の大きさ以上の粒子をどれだけ除去できるかのフィルタ性能を示します。絶対ろ過精度がabs10μmの油圧フィルタは、10μm以上の粒子を99%以上除去します。
粒子除去効率(%)やβ値(ろ過比)で表します。
【例】β値(ろ過比)がβ10=200の油圧フィルタの場合
10μm以上の粒子が油圧フィルタの上流では200個あったのが、下流では1個に低減していることを示します。10μm以上の粒子を199個捕獲できる油圧フィルタという意味です。
粒子除去効率は99.5%になります。
作動油清浄度の指標
ここでは「NAS等級」と「ISO等級」の2つの指標について解説します。
NAS等級
日本では作動油中の汚染レベルの分類は、NAS1638に規定された各粒子径の範囲ごとの個数から等級を規定する方法が主に使用されています。
NAS1638汚染基準 ※100mL中の個数
粒径μ\等級 | 00 | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
5~15 | 125 | 250 | 500 | 1,000 | 2,000 | 4,000 | 8,000 | 16,000 | 32,000 | 64,000 | 128,000 | 256,000 | 512,000 | 1,024,000 |
15~25 | 22 | 44 | 89 | 178 | 356 | 712 | 1,425 | 2,850 | 5,700 | 11,400 | 22,800 | 45,600 | 91,200 | 182,400 |
25~50 | 4 | 8 | 16 | 32 | 63 | 126 | 253 | 506 | 1,012 | 2,025 | 4,050 | 8,100 | 16,200 | 32,400 |
50~100 | 1 | 2 | 3 | 6 | 11 | 22 | 45 | 90 | 180 | 360 | 720 | 1,440 | 2,880 | 5,760 |
>100 | 0 | 0 | 1 | 1 | 2 | 4 | 8 | 16 | 32 | 64 | 128 | 256 | 512 | 1,024 |
- 【表示例】 NAS9級
ISO等級
世界標準として使用されている作動油の汚染粒子の評価等級です。作動油中の粒子数(4μm/6μm/14μm以上の粒子)を数値で表すISO 4406の国際規格です。数値が小さいほど作動油中の粒子数が少なく、清浄度が高いことを示します。
ISO4406汚染基準 ※1mL中の個数
ISO番号 | 30 | 29 | 28 | 27 | 26 | 25 | 24 | 23 | 22 | 21 | 20 | 19 | 18 | 17 | 16 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
粒子数 | 50,000,000 | 2,500,000 | 1,300,000 | 640,000 | 320,000 | 160,000 | 80,000 | 40,000 | 20,000 | 10,000 | 5,000 | 2,500 | 1,300 | 640 | 320 |
ISO番号 | 15 | 14 | 13 | 12 | 11 | 10 | 9 | 8 | 7 | 6 | 5 | 4 | 3 | 2 | 1 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
粒子数 | 160 | 80 | 40 | 20 | 10 | 5 | 2.5 | 1.3 | 0.6 | 0.3 | 0.15 | 0.08 | 0.04 | 0.02 | >0.02 |
【表示例】ISO 12 / 14 / 15
- 1~4μmの粒子数:19個 ⇒ ISO番号:12
- 1~6μmの粒子数:48個 ⇒ ISO番号:14
- 1~14μmの粒子数:128個 ⇒ ISO番号:15
- 注記)表示例は大生工業フィルタカタログより引用しています。
油圧に必要なフィルタの種類と特長
油圧フィルタの概要
油圧装置(油圧システム)のトラブルを防止する為に油圧フィルタを装備します。 作動油の清浄度を保つことで機械寿命を延命できます。 油圧の高圧化が進み、油圧機器の内部クリアランスもどんどん小さくなっています。 油圧フィルタを使用したろ過回路は重要な役割を担っています。油タンクの底に磁石を置いて、鉄粉などを磁石に吸着させる方法などもあります。
油圧フィルタの種類と特長
油圧のフィルタは設置するライン(回路)や場所により、目的が異なります。 下記にライン別の概要と特長を解説します。
サクションフィルタとは?
サクションフィルタは、油圧ポンプの吸入ラインに粗ゴミを捕捉する目的で設置される油圧フィルタです。タンク内に設置する簡易的なサクションストレーナもあります。
設置場所 | 油圧ポンプの吸入ラインに設置 |
---|---|
設置目的 | 粗ゴミの捕捉と油圧ポンプの保護が目的 |
参考ろ過精度 | 100メッシュ~150メッシュ程度 |
注意事項 | 日本は習慣的に装備しますが、ドイツではポンプの吸入抵抗になるという理由から装備しない事が多いです。 |

SFTシリーズ 大生工業

VNシリーズ 大生工業
- 注記)写真は参考例です。
ラインフィルタとは?
ラインフィルタは、油圧ポンプ吐出ラインに油圧アクチュエータや油圧機器の保護を目的に設置される油圧フィルタです。高機能バルブ(比例弁/サーボ弁)の性能確保を目的に設置する場合が多い。各油圧機器の内部クリアランスにより要求されるろ過精度は異なります。リターンフィルタと併用する場合が多いです。潤滑装置にも装備する油圧フィルタです。
設置場所 | 油圧ポンプ吐出ライン / 高機能バルブ(比例弁 / サーボ弁)の入口側に設置 |
---|---|
設置目的 | 油圧アクチュエータや高性能バルブ等の性能確保が目的 |
参考ろ過精度 | (3μm~)10μm程度(機器の要求する清浄度によるが、一般的には10μmが多い) |
注意事項 | 高圧ラインに設置するので使用圧力にご注意ください。 |

ULシリーズ 大生工業

3501シリーズ 大生工業

MVFシリーズ 大生工業
- 注記)写真は参考例です。
リターンフィルタとは?
リターンフィルタは、タンク戻りラインで油タンク内へのゴミの侵入を防止する目的で設置する油圧フィルタです。油圧装置に最も多く用いられます。低圧仕様で良い。
設置場所 | 油圧タンクへの戻りラインに設置 |
---|---|
設置目的 | 油タンクの清浄度維持が目的 |
参考ろ過精度 | 10μm~25μm程度 |
注意事項 | オイルハンマ現象などによるサージ圧力や振動でフィルタが損傷する場合がありますのでご注意ください。 |

TRFシリーズ 大生工業

CS/CFシリーズ 大生工業
- 注記)写真は参考例です。
オフラインフィルタとは?
オフラインフィルタは、機械を運転するメインの油圧回路とは別に準備された、フィルトレーション専用ラインに設置する油圧フィルタです。油圧ポンプを有した専用回路でタンク内のゴミを直接除去します。専用回路なので機械の運転状況に関係なくろ過できます。ゴミの多い設置環境でメイン回路の油圧フィルタと併用することで高い効果を発揮します。
設置場所 | フィルトレーション専用ラインに設置 |
---|---|
設置目的 | 油タンク内にある作動油の清浄化と維持管理する目的 |
参考ろ過精度 | 10μm程度目安 |
捕捉事項 | クーリング回路を併用した回路設計も可能です。 |

MFUシリーズ HYDAC

2MY-2HBシリーズ 日本オイルポンプ
- 注記)写真は参考例です。
サクションフィルタ回路と検討ポイント
サクションフィルタ油圧回路
- 注記)サクションストレーナの記号です。
検討ポイント
- フィルタエレメントを容易に交換できるストップ弁内蔵型フィルタもあります。
- 油圧ポンプの吸込抵抗になる為、圧力損失にご注意ください。
- 参考ろ過精度:100メッシュ~150メッシュ程度
ラインフィルタ回路と検討ポイント
ラインフィルタ油圧回路
検討ポイント
- フィルタエレメントの交換時に油圧装置を停止することなく交換できる複式型フィルタもあります。
- 高圧ラインでの使用になりますので仕様圧力にご注意ください。
- 参考ろ過精度:(3μm~)10μm程度
※機器の要求する清浄度によるが一般的には10μmが多い。
リターンフィルタ回路と検討ポイント
リターンフィルタ油圧回路
検討ポイント
- 低圧仕様で良いが、オイルハンマ現象などによるサージ圧力や振動などが大きい場合は、耐圧仕様が高いラインフィルタでの選定をお勧めします。
- 最大戻り流量を把握したうえで油圧フィルタのサイズ検討をお願いします。
- 参考ろ過精度:10μm~25μm程度
オフラインフィルタ回路と検討ポイント
オフラインフィルタ油圧回路
検討ポイント
- メイン回路内にある油圧フィルタのメンテナンス間隔を長くしたい場合に検討します。
- メイン回路でより高い清浄度を要求される場合に検討します。
- メイン回路内にある油圧フィルタを通過する油量が少ない場合に検討します。
- 油圧フィルタ単体は低圧ラインフィルタを使用することが多いです。
- クーリング回路を併用した回路設計も可能です。
- 参考ろ過精度:10μm程度目安
アプリケーション
実際に油圧フィルタがどんなところに使われているか、例をご紹介します。
製鉄機械
アプリケーション
工業炉

浄油機

車両機械
アプリケーション
高圧吸引車

カートリッジフィルタ

一般産業機械
アプリケーション
射出成形プレス

インラインフィルタ

舶用機械
アプリケーション
定置網船

リターンフィルタ

- 掲載写真は参考例です。
マツイの取扱製品
- アクセサリー(大生工業)
- 油圧アクセサリ(増田製作所)
- 浄油機(ダンフォス 旧イートン)
- 浄油機(HYDAC)
- 株式会社HYDAC・・・各種フィルタ
- ヤマシンフィルタ株式会社・・・各種フィルタ
- 株式会社ツカサ・・・インラインフィルタ/コインフィルタ/継手型フィルタほか
- 株式会社PARKER・・・各種フィルタ/浄油機
- 大生工業株式会社・・・オフラインフィルタ
以下メーカーの取り扱いもございます。
各種メーカー製品の取り扱いがございます。
詳細につきましては、お気軽にお問い合わせください。
株式会社マツイでは、様々なメーカーの油圧機器を単品だけでなく、油圧ユニットや油圧システムとしてご提供しております。
油圧回路のご相談から油圧のプロがご対応させていただきます。
ぜひご相談ください!
執筆者

八十原 貴宏
大阪支店 営業部
油圧装置調整技能士1級
当ページについて