油圧のクローズ回路(閉回路)とは?閉回路ポンプと基本回路の構成機器・ポイントを解説!
油圧の知識(第9回)株式会社マツイでは、様々なメーカーの油圧機器を単品だけでなく、油圧ユニットや油圧システムとしてご提供しております。
こちらの記事では、油圧システムを構築する上で大切な油圧回路の基本を解説していきます。
目次
油圧回路とは?
油圧回路とは、アクチュエーターがどのような油圧仕様で動作するのかを、さまざまな記号を使って油圧システム全体を表したものです。一般的にJIS記号を使って表します。
別な表現にすると油圧回路は、要求通りの力と速度を目的の方向へ動かすための設計図ともいえます。
油圧システムが適切かどうか?効率よく仕事ができるか?効果的な設計か?などさまざまな検証も油圧回路で行います。今回は油圧の基本回路であるクローズ回路(閉回路)と使用する閉回路ポンプについて解説します。
油圧回路の種類
油圧回路はオープン回路(開回路)とクローズ回路(閉回路)の2種類に分類されます。
クローズ回路(閉回路)とは?
油圧回路のクローズ回路(閉回路)とは、メインの油圧ポンプの斜板が正転/中立/逆転する事で加圧した油は吸入側/吐出側が入れかわり双方向に吐出されます。
加圧した油は油圧バルブを経由せず直接アクチュエータへ供給します。
アクチュエータからの戻り油は油圧バルブを経由せず直接油圧ポンプの吸入側へ導かれます。
圧力/流量/方向制御は油圧ポンプで制御され、油は油圧ポンプとアクチュエータ間をループ状に循環する油圧回路になります。
油圧回路(油圧配管)のP.S.A.Bラインがタンクを介在する事なくループ状につながっているのでクローズ回路(閉回路)と呼ばれます。
回路内への油の補給は別途準備したチャージポンプで行います。
アクチュエータが複数台あったとしても単独の油圧回路にのみ対応します。
アクチュエータは基本的に油圧モータが対象になります。
特に無段変速油圧トランスミッション HST(Hydro Static Transmission) に用いられ、産業車両などの走行系に幅広く採用されています。
クローズ回路(閉回路)イメージ図
確認事項
- 油圧回路(油圧配管)のP.S.A.Bラインがタンクを介在する事なくループ状につながっている事を確認ください。
オープン回路(開回路)イメージ図 【比較用】
確認事項
- 油圧回路(油圧配管)のP.S.T.A.Bラインがタンクを介在する事でループ状につながっていない事を確認ください。
クローズ回路(閉回路)の特長と短所
オープン回路(開回路)と比べた場合の特長と短所を解説します。
クローズ回路(閉回路)の特長
高精度な制御が可能
流量や回転方向を閉回路ポンプだけで制御できるため、車輛の走行において、きめ細かな速度調整や滑らかな発進/停止を実現します。車輛の制御方式に対応した多様な制御レギュレータが閉回路ポンプには準備されています。
コンパクトでシンプルな機器構成
方向制御弁や複雑な配管を必要としないため、機械の小型・軽量化に貢献します。
双方向動作が容易
閉回路ポンプの斜板角を変えるだけで車輛の前進/後進の切り替えができ、操作も簡単です。 無段変速油圧トランスミッションHST(Hydro Static Transmission)の一番の利点といえます。
効率の良い動力伝達
機械的なギア機構に比べて、低速域でもトルク伝達が効率よく行えるため、負荷の大きな作業にも適応します。
クローズ回路(閉回路)の短所
油温上昇のリスク
油がループ状に循環し続けるため、放熱が不十分となり油温が上昇し易い。 別途チャージポンプで新しい油を補給し、同時にフラッシング回路で高温になった油を排出して冷却装置で冷却してください。
油質管理の重要性
閉回路では異物や空気が蓄積し易い。 ポンプやモータの摩耗や焼付などにつながる恐れがありますのでフィルトレーションやエア抜きなどの油質管理をしてください。
システム構成の複雑さと価格
閉回路ポンプ自身が高機能かつ高価で汎用性がなく、チャージポンプ、冷却装置、油圧バルブなどの補助機器を含めシステム構成が複雑で高価になりやすい。
故障時の対応
閉回路でのトラブルは、油の循環停止や圧力異常につながります。異常検知対策と予備品対応が必要です。
閉回路ポンプの概要
クローズ回路(閉回路)用に使用する油圧ポンプは、閉回路専用の可変容量形ピストンポンプになります。閉回路ポンプと呼ばれています。
メインの油圧ポンプの斜板が正転/中立/逆転することで、加圧した油は吸入側と吐出側が入れかわり双方向に吐出されます。圧力・流量・方向制御は油圧ポンプで制御され、油は油圧ポンプとアクチュエータ間をループ状に循環します。
メインポンプの制御レギュレータにはさまざまな制御方式があり、機械に最適な制御方式を選定する必要があります。また、回路内への油の補給は別途チャージポンプで行います。これは閉回路ポンプに連結して装備することが可能です。
閉回路ポンプは、主に車輛の走行系油圧モータの駆動源として用いられることが多いです。
制御レギュレータ概要【参考例】
▼表が画面に収まらない場合は、横にスクロールしてご覧ください。
| 制御方式/型式 | 概要 |
|---|---|
|
マニュアルサーボ制御 型式:HW |
傾転シリンダの位置(傾転角度)は操作レバーの角度に比例して変化します。 これによりポンプの吐出量を無段階に制御します。 吐出方向は操作レバーの方向できまります。 |
|
速度感応出力制御 型式:DA |
エンジンの回転速度に感応する出力制御で、4/3方向制御弁およびDA制御弁で コントロールされた制御圧力がポンプの傾転シリンダの位置を決定します。 吐出方向は方向制御弁で選択され、吐出量は無段階に制御されます。 |
|
油圧ダイレクト制御 型式:DG |
接続ポート X1 または X2 にパイロット圧力を供給して傾転シリンダを直接切換えます。 これにより斜板(吐出量)をゼロから最大押しのけ容積まで制御します。 吐出方向はそれぞれの接続ポートに対応します。 |
|
電磁比例制御 型式:EP |
あらかじめ設定した指令電流で電磁比例弁を制御します。 この制御圧力が傾転シリンダの位置を決定し、ポンプの吐出量を無段階に制御します。 |
- ボッシュレックスロスのカタログA4VG/3シリーズ(RJJ92003/05.99)より引用しています。詳細情報はカタログをご確認ください。
- 上記以外の制御レギュレータもございます。
| 可変容量形アキシャルピストンポンプ | 可変容量形アキシャルピストンポンプ |
|---|---|
|
|
|
ボッシュレックスロス A4VG/32シリーズ |
ボッシュレックスロス A4VG/40シリーズ |
- 掲載写真は参考例です。
- 閉回路ポンプの詳細情報は各メーカーのカタログ確認をお願いします。
クローズ回路(閉回路)の構成機器と基本回路のポイントを解説
クローズ回路(閉回路)について基本回路をもとに解説します。
クローズ回路(閉回路)の基本回路【解説用】
- 油圧回路内の値は解説用の参考値としてください。
クローズ回路(閉回路)の概略構成機器
解説用に準備した機器リストですので機械に合わせた機器構成と選定をしてください。
▼表が画面に収まらない場合は、横にスクロールしてご覧ください。
| NO | 名称 | 参考値 (単位) |
備考 目的/用途 |
|---|---|---|---|
| 1 | 閉回路用斜板形 可変ピストンポンプ(P1) |
50 (L/min) |
MAX50L/min at 12MPa ※制御レギュレータの解説回路記載なし |
| 2 | チャージポンプ(P2) | 10 (L/min) |
メイン回路内への補給用 ポンプ吸入側のブースト用 |
| 3 | タンデムポンプ(P3) | 必要量 (L/min) |
メイン回路以外の油圧源(開回路用) ※解説回路記載なし |
| 4 | 固定容量形油圧モータ | 200 (cc/rev) |
可変容量形油圧モータ対応可 メカニカルブレーキ付油圧モータ対応可 |
| 5 | フラッシング弁 | 0.5 (MPa) |
回路内冷却・ろ過用/油循環用 チャージリリーフ弁(ア) |
| 6 | 高圧リリーフ弁 | 14.0 (MPa) |
過大圧力の回路保護用(安全弁) |
| 7 | チェック弁 | 0.04 (MPa) |
低圧側選択用 |
| 8 | ラインフィルタ | 10 (μ) |
回路内の清浄管理用 |
| 9 | 低圧リリーフ弁 | 1.0 (MPa) |
チャージリリーフ弁(イ) |
| 10 | サクションストレーナ | 150 (メッシュ) |
粗ゴミのろ過用 |
| 11 | タンク | 50 (L) |
貯蔵用 |
| 12 | 温度計 | 0~100 (℃) |
タンク内油温確認用 |
| 13 | 油面計 | **~** (L) |
タンク内油面確認用 |
| 14 | 給油口兼エアブリーザ | 標準 | 給油用 粉塵等の侵入防止用 |
| 15 | ドレン弁 | 標準 | 油排出用 |
- 機器リスト内の値は解説用の参考値としてください。
クローズ回路(閉回路)の基本回路を解説
- メインポンプ(P1)は負荷に見合った圧力と流量しか発生しないので効率の良い油圧回路といえます。
- メインポンプ(P1)は吐出方向を変えて油圧モータの正転/逆転を制御し、メインポンプ(P1)の吐出量を変えることで油圧モータの回転数を制御します。
-
メインポンプ(P1)の圧力/流量/方向の制御方式は傾転シリンダを制御するレギュレータにより特長が異なります。機械側の仕様に合わせた制御方式を選定ください。
- メーカーにより準備されているレギュレータの種類も異なります。
- チャージポンプ(P2)はメインポンプ(P1)の吸込側(低圧側)の負圧を防ぐためにチェック弁で低圧選択し吸込側(低圧側)へ油をブースト補給します。補給する圧力はフラッシング弁のチャージリリーフ弁(ア)で決められます。
-
フラッシング弁はチェック弁で高圧選択し、高圧側パイロット圧力でフラッシング弁が切り換わり低圧側からチャージリリーフ弁(ア)へ油は導かれます。
- 低圧リリーフ弁(チャージリリーフ弁イ)が動作しないように設定圧力をチャージリリーフ弁(ア)より高く設定してください。
- 油圧モータの停止時はフラッシング弁が中立位置となりチャージリリーフ弁(ア)は動作せず、低圧リリーフ弁(チャージリリーフ弁イ)が設定圧力となり動作します。
- タンデムポンプ(P3)はメイン回路の油圧モータ以外の油圧機器を動作させる場合に検討します。解説回路では参考用にポンプ記号のみ記載しています。
ポイント
- 多様な機能が閉回路ポンプに装備可能ですのでメーカーカタログで最適仕様を選定ください。
- チャージポンプ(P2)の吐出量はメイン流量の20%程度が目安になります。フラッシング弁からの排出量とともに検討ください。
- タンク容量はチャージポンプ(P2)の吐出量の5倍を参考値にしています。
- フラッシング弁のタンクライン(T)でフィルタと冷却器を装備し、油のろ過と冷却をするフラッシング回路が実用的かと思います。
- 解説回路なのでチャージリリーフ弁(ア)で油圧解説しています。
アプリケーション
実際にクローズ回路(閉回路)がどんなところに使われているか?
クローズ回路(閉回路)は、さまざまな産業車両に導入されています。市場としては無段変速油圧トランスミッション(HST: Hydro Static Transmission)に多く採用されており、産業車輛だけでなく建設機械や農業機械などにも導入されています。特にホイールローダ、トラクタ、フォークリフト、芝刈り機、除雪機などの走行制御を必要とする車輛に用いられています。
工事車輛
アプリケーション
アスファルトフィニッシャ
産業車輛
アプリケーション
自走式クラッシャー
工事車輛
アプリケーション
トンネル用エレクター
林業機械
アプリケーション
林内作業車
農業機械
アプリケーション
サトウキビハーベスター
芝管理機械
アプリケーション
乗用4輪駆動スイーパー
掲載写真は参考例です。
マツイの取扱製品
現在Webサイトに閉回路用油圧ポンプの掲載はございませんが取り扱いしております。 ぜひ、お問い合わせください。貴社仕様に合わせてご提案させて頂きます。
株式会社マツイでは、様々なメーカーの油圧機器を単品だけでなく、油圧ユニットや油圧システムとしてご提供しております。 油圧回路のご相談から油圧のプロがご対応させていただきます。 ぜひご相談ください!
執筆者

八十原 貴宏
大阪支店 営業部
油圧装置調整技能士1級







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