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陸上養殖業の基本!方式・設備・コストを解説

おさかなマイスターの養殖講座(第2回)

陸上養殖では海面養殖に比べ、様々なメリットがあります。

外部環境の影響を受けにくく、飼育環境をコントロールしやすい点。排出する物質のコントロールができるため、外部環境を汚しにくい点。そして場所に左右されずに養殖場を作ることができる点等です。
しかし、一口で陸上養殖と言っても、方式によって利点・欠点は大きく異なります。今回はそれらについて紹介します。

陸上養殖の3つの方式

かけ流し式

海、川、井戸などから新たな水を供給することで、飼育水槽を換水します。
飼育で汚れた水は同時に排水されていきます。

かけ流し式のメリット

設備導入コストが小さく、極端に言えば水槽と給排水があれば成り立ちます。
常に新鮮な水が供給されるため、水槽内の状態は比較的安定します。

かけ流し式のデメリット

自然から常に新しい水を供給するため、外部環境の影響を受けやすく、水質調整が難しいのが特徴です。
一方、大量の飼育水を排出するため、外部環境を汚してしまう可能性があります。

閉鎖循環式

飼育で汚れた水をろ過・殺菌し、飼育水として再利用します。換水は少なく、外部環境との接点が少ない養殖方式です。

閉鎖循環式のメリット

外部環境の影響を受け難く、飼育環境のコントロールが容易です。魚種の制約を受けにくく、トレーサビリティにも対応が容易となります。
排水が殆ど無いため、外部環境への負荷も軽減されます。

閉鎖循環式のデメリット

設備のイニシャルコスト、及び電気使用量などのランニングコストが高額になります。
換水が少ないため、餌の食べ残しや飼育生物の排泄物由来の成分が溜まり易く、水質維持が課題となります。

半閉鎖循環式

上記の両方を組み合わせた飼育方式です。
閉鎖循環式設備で水質を維持しながら、水質悪化の原因となる成分を換水により排出します。

半閉鎖循環式のメリット

かけ流し式、閉鎖循環式両方のデメリットを補い合い、水質管理が行いやすくなります。

半閉鎖循環式のデメリット

使用する機器が増えるため、かけ流し式より設備コストが高くなります。

陸上養殖で必要な設備

陸上養殖を始めるには多数の機器が必要になります。もちろん、どんな場所で設備を作るのか、どんな生物を飼育するのかによって必要な設備の仕様は異なります。

ここでは、閉鎖循環式陸上養殖システムを構成するための基本的な機器について紹介します。

※機器の順番はこの限りではありません。また、ここに記載している以外の機器も使用されます。

水槽

生物を収容し、飼育する為に必要となります。

選定のポイント

実に様々な材質・形状の水槽があります。
設置場所や飼育生物に応じて、適切な水槽を選定・製作しなければなりません。ゴミが水槽に溜まりにくいよう、内部の形状にも気配りが重要です。

当該商品

沈殿槽、ウールマット、バッグフィルター、カートリッジフィルター、泡沫分離装置(プロテインスキマー)、等

物理ろ過

餌の食べ残しや飼育生物の排泄物などのゴミ(有機物)を除去するのが目的です。

マット状のフィルターで漉したり、水中に溶け込んだタンパク質を泡の力で除去したりすることも可能です。この後の生物ろ過の働きを効果的にするための前処理です。

選定のポイント

どのようなゴミ(浮遊しやすい、沈みやすい等)が排出されるかによって必要な処理が異なります。

またメンテナンス性についてもしっかり確認しましょう。例えば、マットは目詰まりすると頻繁に交換する必要があります。メンテナンスしやすい商品を選びましょう。

当該商品

FRP水槽、組み立てシート水槽、PP製組立水槽、コンクリート水槽、等

生物ろ過

見た目上ゴミが無くなっても、水中には生体に悪影響を及ぼす汚染物質が蓄積しています。
飼育生物からの代謝物、特にアンモニア、亜硝酸イオン等をバクテリア(硝化細菌)の働きで低害化・無害化していくことが目的です。

選定のポイント

硝化細菌を増やし、安定させることが重要です。硝化細菌の培地として様々なろ材が使用されており、基本的に「細菌の付着するための表面積が大きい」「目詰まりしにくく、水流を阻害しない」様な素材を選びます。

ろ過能力は同一素材の場合ろ材の容量に比例しますので、大きめのろ過槽を用意すると安心です。

当該商品

リング状ろ材、マット状ろ材、セラミック製ろ材、プラスチック製ろ材、濃縮硝化細菌、等

循環ポンプ

水槽内の水を循環し、ろ過槽をはじめとした各処理設備に水を送るために欠かせません。

選定のポイント

設備や飼育密度等によって、飼育水をどの位まで高く揚げる必要があるのか、流れる量をどの程度にするのか等を検討します。
また使用するのが海水の場合、錆に強い材質を選ぶことも重要です。

当該商品

陸上ポンプ(マグネットポンプ等)、水中ポンプ、等

殺菌装置

飼育水槽内に入り込んだ病原菌やウィルスに対して種々の方式で殺菌・不活化します。

選定のポイント

紫外線殺菌装置は対象によって必要な照射量が異なります。
また濁った水に対しては効果が薄くなりますので、他のろ過設備と合わせて検討が必要です。オゾンや次亜塩素酸、銅イオンなどを用いた殺菌装置は、使用方法を間違えると飼育生物にもダメージを負わせてしまいます。

まずは使用する状況を把握することが必要です。

当該商品

紫外線殺菌装置、オゾン発生装置、海水電解殺菌装置、銅イオン発生装置、等

水温調節機

初期コスト、ランニングコストがかかる設備ですが、飼育生物にとって適切な水温に保つことは、成長の促進だけでなく、病気のリスク回避のためにも非常に重要です。

選定のポイント

熱量計算を行い適切な機種を選びます。

機械を長く使用するために、能力に余裕のある機種を選ぶ方が良いでしょう。断熱性の高い水槽を用いたり、蓋をしたりすることで余計な熱損失を防ぐことも重要です。

当該商品

循環式クーラー、投込式クーラー、投込式チタンヒーター、ボイラー、等

養殖に掛かるコスト

陸上養殖では設備の初期投資、ランニングコストが高額になります。
では何にどのくらいの費用が掛かっているのでしょうか。

建屋、土台などの建築費、水槽、ポンプ、ろ過槽などの購入費、配管、電気などの設置・施工費等、設備の初期コストだけでも3分の1を占めています。

設備の選定や準備に不安を感じたら

何から準備を始めたらいいの?どんなメーカーの、どんな機種が適当なの?
そんな方は是非マツイにご相談ください。マツイから陸上養殖に必要な機器をご提案致します。

また設備設計や設置作業についてもご対応致します。お客様のやりたいこと、育てたい魚、作りたい商品を一緒に作りましょう。

執筆者

芝原 英行

東京海洋大学院卒。学生時代はウナギの完全養殖の研究に従事。
(株)マツイ入社後、2年目におさかなマイスターを取得。称号の重圧に日々プレッシャーを感じている。

カキ、サバ、ウナギ、マグロ、チョウザメ等、様々な魚介類の養殖設備・実験水槽等に携わり、趣味はダイビング・アクアリウムと魚漬けの日々を送っている。

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*引用:日本おさかなマイスター協会Webサイト

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