養殖業を始めるには?ビジネスの視点から徹底ガイド!
おさかなマイスターの養殖講座(第1回)マツイ水産事業部では、養殖場・水族館・大学・水産研究所等、様々な水生生物の飼育に必要な機器・設備を取り扱っています。
近年、養殖業へ新規参入されるお客様が増加していますが、専門家でない方が理解しやすいように紹介されている情報が少ないと感じています。
本講座では養殖に必要な基本的な知識・情報を簡単な表現で記載し、新規参入の道標にして頂ければと思っています。
養殖とは
養殖とは、水生生物を食品として、または加工した製品として利用することを目的として、人為的に繁殖・育成することです。
その生物の生涯の全て、またはある期間を人が管理し、効率的に育てることで、繁殖率、成長率、生残率を高め、収穫量を増やすこととされています。
漁船による天然の漁獲量は既に頭打ちで、現在では養殖業生産量が上回っています。
世界の水産物生産の主力は漁船漁業から養殖業に移りつつあり、今後の世界の水産物需要の増加に対応していくのは、主に養殖業であると考えられています。
養殖の方法
養殖の方法として下記が挙げられます。
海面養殖・内水面養殖
堤を築いた中や、網で生簀を作った中などで育成したり、ロープに吊るしたり、小さな貝を漁場に撒いたり等、海上や湖等の自然環境下で行う養殖です。

海面・内水面養殖のメリット
自然環境で行う為、陸上養殖と比べて設備コストがあまり掛かりません。
自然の広い飼育スペースで、海水や淡水を存分に使用できます。
海面・内水面養殖のデメリット
自然の中で飼育を行うため、飼育環境のコントロールができません。気象や病気の流入等の外部環境の影響をそのまま受けてしまいます。
一方、過剰な給餌や投薬によって外部の環境を汚してしまうこともあります。
網の付着物除去、斃死魚の回収、飼育魚の状態確認等の負担がかかる作業が有ります。そして養殖に適した静穏な沿岸域には限りがあり、また日本国内では漁業権があるため新規参入しにくいのが現状です。
陸上養殖
陸上で人工的に創設した環境下で行う養殖です。

陸上養殖のメリット
飼育環境を人為的にコントロールすることが可能です。設備を陸上に設置する為、外部環境からの影響、または外部に対する影響が少ないのが大きな特徴です。
また、沿岸地域に限定されず、遊休地などを活用した養殖場の設置が可能です。
陸上養殖のデメリット
設備のイニシャルコスト、及び電気使用量などのランニングコストが高額になります。
閉鎖循環式では複数の機器を組み合わせて使用するため、故障時や停電時の対応が煩雑です。
狭い空間のため、一度飼育槽で病気が発生してしまうと被害が拡大しやすいことも挙げられます。
養殖を始める際の4つのポイント
- 販売方法を決めましょう
- 育てる場所を決めましょう
- 魚種を決めましょう
- 飼育方法を決めましょう
1. 販売方法を決めましょう
どんなに美味しい魚を作っても、売り先が無ければ事業として成り立ちません。
少なくとも以下の項目は考えておくようにしましょう。
マーケット
国内に販売するのでしょうか。
それとも海外に販売するのでしょうか。
インターネットを用いて個人に販売するのでしょうか。
飲食店や百貨店などへの販売ルートは確保できているでしょうか。
商品の形態
鮮魚として販売するのでしょうか。
切り身やフィレなどに加工して販売するのでしょうか。
近年では養殖業者が食品加工・自社販売を行う6次産業化も広がっています。
ブランド化
どのように市場に売り出していくのでしょうか。
地産地消を売りにする、特殊な技術や餌で育てる等、特色や話題性を出せればより付加価値を高められます。
2. 育てる場所を決めましょう
海面や内水面での養殖は漁業権の関係から、新規参入は容易ではありません。
陸上養殖は場所に左右されないものの、以下の項目は考えておくようにしましょう。
用地の確保
ある程度の敷地面積が無ければ養殖が成り立ちません。
水槽、ろ過設備、様々な飼育機械、加工設備等の十分な設置スペースを考えましょう。また極端な僻地では輸送に費用が掛かります。
取水と排水
閉鎖循環式養殖であっても、多少の水替えは必要です。容易に水を得られる利水可能な場所を選びましょう。
一方、排水については、飼育水の水質が地域の一般排水基準に準拠しているか確認しましょう。
住宅街の下水に大量の海水を流すことはできません。景勝地や山岳地域では排水量そのものが規制されることもあります。
3. 魚種を決めましょう
「どんな魚種なら売れるのか!?」
以下の項目を参考にどんな魚種を育てるのか考えましょう。
成長性
飼料効率が高く、成長の早い魚種を選びましょう。
長期飼育は生産コストがかかり、病気や事故のリスクも増えます。
収容後1年程度で出荷出来る魚種の方が採算は取りやすい傾向にあります。
高価格
今市場でどんな魚のニーズがあるのでしょうか。
どんな魚が、どんな利用をされているのでしょうか。
付加価値の高く、高価格で販売できる魚種を選びましょう。
稚魚の入手
稚魚の生産技術・入手ルートは確立されているでしょうか。
特定外来生物に該当する魚種、生産が安定しない魚種などは避けるのが無難です。病気のリスクがあることも覚えておきましょう。
飼育方法を決めましょう
どんな魚を育てたいかを決めたら、以下の項目も決めていきましょう。
飼育規模
大規模でも小規模でも、機械を使って管理する場合の人のコストはあまり変わりません。
大規模に効率良く育てることができれば、収益も上がりやすくなりますが、初期コスト面のリスクが伴います。
実績の有無
どんな場所で、どんなやり方で育てているのか、しっかり勉強しましょう。
他所で育てたことのない魚を選べば大きな話題になりますが、リスクが伴います。
経験者確保
全くの素人がいきなり養殖を始めるのは、あまりにもハードルが高過ぎます。
飼育経験のある方、飼育方法や設備について詳しい方を頼り、一緒に考えていきましょう。
養殖の成功のカギ
養殖を始めたい!でも何から始めればいいのか分からない・・・
そんな方はまず弊社にご相談ください。貴社のやりたい養殖に対し、今何ができて、どんなことが必要なのか、一緒に考えていきましょう。
執筆者

芝原 英行
東京海洋大学院卒。学生時代はウナギの完全養殖の研究に従事。
(株)マツイ入社後、2年目におさかなマイスターを取得。称号の重圧に日々プレッシャーを感じている。
カキ、サバ、ウナギ、マグロ、チョウザメ等、様々な魚介類の養殖設備・実験水槽等に携わり、趣味はダイビング・アクアリウムと魚漬けの日々を送っている。
おさかなマイスターって?
さかなをおいしく、賢く食べるために、さかなの魅力を伝えるために魚介類の旬、栄養、産地、漁法、調理、取扱方法などを学びさかなの魅力や素晴らしさを伝える「さかなの伝道師」です*。
弊社(株式会社マツイ)には「おさかなマイスター」の有資格者が在籍しております。当ページでは有資格者の監修の元、養殖にまつわる専門知識をお伝えしていきます。
*引用:日本おさかなマイスター協会